•  
     第6回 「慰安婦決議案、米下院外交委員会において
           賛成多数で可決、この先日本は荒海で漂い続けるのか」 2007年6月30日
     

    目次]
        一.「慰安婦決議案」、6月26日、下院外交委員会で可決
        二.決議案可決の立役者ラントス外交委員長の変心
        三.国内外各紙が報じる今後の日本の情勢
        四.主権国家としてどうあるべきか

     
    一、「慰安婦決議案」、6月26日、下院外交委員会で可決
     とうとう日本時間の26日(日本時間27日未明)、米国下院議会外交委員会で、 日本政府に謝罪を迫る極めて不公正な「慰安婦決議案」(以下、決議案)が可決され、 筆者が主張していた「採択の可能性は「半々」ないしは「六四」が見事に粉砕された。 悔しさは別として、ここで露呈した米国の議会人の自分勝手さと利己主義には義憤を感じる。今回は、周知である決議案の欺瞞さや問題点などには触れず、可決への経 緯を中心に、国内5紙、韓国3紙の電子版に基づいて述べることにする。
     米下院外交委員会は26日、決議案を一部修正の上、賛成39、反対2(欠席9) の大差で可決した。反対は共和党次期大統領選候補のダンクレド議員、彼は「日本は 繰り返し謝罪している」、またポール議員は「議会の目的は、紛争の一方に肩入れす ることではない」と両人とも正論を述べた。さらに、賛成派である民主党のワトソン議員も「日米関係に配慮すべき」との発言をしている。賛成者が8割弱ではあったが、 良識人が1割強(欠席者含む)いたことがせめてもの救いである。
     決議原案の修正は、共和党のトム・ラントス外交委員会委員長と共和党のイリアナ・ ロスレーティネン筆頭理事によって行われた。
     この修正案要約の日本語訳については、国内各紙の表現があまりにもまちまちだったが、筆者には判りやすかったのが、下記の
    「読売新聞」訳で、
     「安倍首相が4月の訪米時に元慰安婦へのおわびを表明したことなどを踏まえ、原案が要求した『日本国首相の公式の声明として謝罪を』を、『首相が公式な声明と して謝罪すれば、これまでの声明の誠意に関し繰り返される疑問を晴らすのに役立 つだろう』」となっていた。
     この訳文は、韓国紙「中央日報」の表現とほぼ同じであった。韓国紙といえば前回 も少し触れたが、今回の報道についても全体的にトーンが低く、4,5月とは様変わりで、米国内であれだけ中国系や韓国系団体が異常なほどの異常な運動を繰り返して いる状況と考え合わせると何か奇異に感じた。
     修正決議案採択後、民主党のペロン下院議長は支持を早速表明した。
    一方、国務省の報道官発表について、「朝日新聞」では、「同日、記者団に『安倍首相の訪米時にブッシュ大統領が(謝罪の受入れに)言及しており、政権に関する限 り、付け加えることはない』と述べ、政府間では解決済みとの姿勢を示した」と伝え、 片や「毎日新聞」では、「ブッシュ大統領が4月の安倍首相の訪米時に『首相の謝罪を受け入れる』と述べたことに尽きると説明。事態を静観する姿勢を示した」と、感触に違いがみられる。しかし、今後の推移をみる必要があることを考えれば「静観する」の方が妥当だと思う。なお、日本政府も「静観の姿勢」を示している。

    二、決議案可決の立役者ラントス外交委員長の変心
     ここで決議案可決の立役者ラントス外交委員長に目を向ける。今月に入ってから韓国人系団体の集会に2回も顔を出した。16日には「先月上程しようとして見送られた慰安婦決議案を26日、上程する積もりだ」と語り、2回目の集会では、「本会議に持ち込むことも私の責任だと考えている」とまでリップサービスをしている。
    1回目の発言記事を見たとき、ラントス外交委員長の心中に変化が起きたのではないかと考えたが、その予感は的中していた。28日の報道によれば、米国の地方紙が 6月16日付で「ラントス委員長に対して中国系団体が、この決議案を通さなければ 『次回は対立候補を立てて、落選させる』との圧力をかけていた」と報じていたこと が分かったのだ。この圧力が今まで慎重であった彼の態度を急変させたのである。
    彼はすかさず、すぎやまこういち氏など、日本の有識者、議員たちがワシントンポ スト紙14日付に意見広告「真実」を掲載させたのを知ると、「決議案共同発議書」 に署名した。そのため、日頃沈着なこの男の行動に釣られて署名した議員は10 人に上った、とも言われ、その結果の署名総数は、上院435人中145人とも149人ともいわれるまでになった。
    筆者は彼の実力と影響力を信じたが故に「半々」と考えたのが逆転、変心の明確な態度は決議案採択前に、前述の「意見広告」の超党派国会議員44人について「慰安婦制度の中で生き残った人々を中傷するものだ」と述べるというパーフォーマンスまでみせて忠誠を示した。
     それに勢い付いたのか決議案提案者のホンダ議員、「産経新聞」によれば、「『修正案は(決議案の)中心部分に影響を及ぼしていない』と述べ、あくまで日本政府の公式謝罪を求めた。その上で、7月2週か3週に本会議で採択されることに期待感を示した」と報じた。こうなると現状では、決議案は上院でほゞ間違いなく可決され、 日本が「混迷の道を歩む」ことになると予見される。

    三、国内外各紙が報じる今後の日本の情勢
     それを予測させる記事として、「中央日報」は「今回の決議案はたとえ法的拘束力 がなくとも米議会が歴史的真実にソッポを向いてきた日本政府に自制を促すという点で、国際社会において慰安婦問題に対する日本政府の態度の変化を圧迫する重大なきっかけになるものとみられる」と報じた。
     また「朝鮮日報」には「慰安婦決議案が26日、外交委員会で可決されたが、このため日本は来月開かれる下院本会議での決議案可決を阻止しようと、必死の構えだ」 とあり、さらに前回も紹介したカナダ議会の状況についても触れて「米下院で決議案 が可決されれば、カナダ議会も可決の弾みがつく可能性も高い。また、慰安婦として被害を受けている女性がいるのはアジアだけではない。ドイツやオランダも従軍慰安婦問題に多大な関心を寄せており、日本は国際社会で『連鎖的なダメージ』を受ける かもしれない」などと報じた。
     「産経新聞」では、「関係者によると、決議案を推進する議員や韓国系団体では、 下院本会議での採択が実現すれば、過去に法案化を阻まれた太平洋戦争中の米軍捕虜の強制労働賠償問題や靖国参拝問題など、歴史に絡む他の対日問題にも網を広げる構想を練っているいう」と、恐れられる事象の一端を報じていた。
     前述の「議会人の自分勝手な利己主義」が何を指すかといえば、国の大義を投げ捨てるホンダ、ラントスは地元州の一部の団体の主張を代弁し、ラントスまでがこれら団体の軍門に下ったという、まさにローカル議員そのものだということである。
     「議員も人の子」という言葉があるが、他の種の決議案とは違うのに、「御身大切に」を優先させたのだ。今後も彼は落選の恐怖に駆られるままに叫び続けるだろう。

    四.主権国家としてどうあるべきか
     5月頃から国内外各紙の「拘束力のない決議だから問題ない」に安易に乗せられ、 安閑として先を見ない識者、一般人の認識・言動には理解に苦しむばかりだった。
     この決議案の及ぼす影響は、米中韓北だけの問題だけでとどまるものではなく、世界中に「日本国」の存在理由を貶めるための大きき影響力・伝播力を持っている。
     そして日本は、冤罪であるその負い目をずっと背負い、後ろ指をさされ続け、次世代の人間にまでそれが及ぶのである。
    米国は国防予算の制約に絡んで、日本に軍備強化を求め、その一方、矛盾すること は次世代戦闘機の供与に難色を示しているが、この現象は一体何を意味するのか。
     中国は自分たちの脆弱化した国内状況の修復のために、正味期限の切れた「靖国参拝」の次のカードの一つとして、「慰安婦問題」を利用しようとしている。
     韓国は一時険悪だった米国との関係が修復に向かっていることを背景に、日本より優位に立ち、領海問題らの交渉を有利に進めるために使い、またこのカードを、現在、 国連事務総長に就いている潘基文氏をそそのかすことをも考えられる。
     北朝鮮は、日本国内での宣伝活動に加え、「拉致問題」に絡めることも米国国務省とは裏で暗黙の了解が進んでいる、と考えてもいいだろう。
     世界は「自国の利益」を優先し、それ相当の見返りがなければ他国を助けないのが、 鉄則である。それを片翼飛行を当然の如く甘受してきた日本は、米国の「いらだち」 を招き、その挙句が今回の「慰安婦決議案」の採択に至ったともいえる。米国内に鬱積がなければ、共同発議者があれほどの多さにはなかっただろう。
     それが米国政権内にも沈殿しているのは、国務省の最近の動きが「国家情報会議」報告書にある「日本への不信感」と並行していることからもみてとれる。
     また最近、チャック・ヘーゲル外交委員会委員長代行が「日本は、自衛ではなく国 防を考えるべき」、「核保有、核武装を」的な発言をインタビューで聞いた。これは言外に、(北朝鮮が攻撃しても)米国は日本を守らない、と言っているに等しい。
     日米同盟の改変が検討されていると言われる中、昨年の中川昭一政調会長の「核保有」発言は、政権内部からさえ反対論が出た。そして北朝鮮のミサイル発射時には、 ライス米国務長官が飛んできて「核の傘保証」宣言、これで一切の発言、検討が鎮火 してしまった。
     米国としては「日本の核武装はなるべく避けたい」という思いがあるが、一方、米 国内では「日本の核保有論」が出ていたといわれる。しかし、米国の保障がいつまで続くかを考えることもなく、「核保有、核武装なんて無理だ」との意見に押し切られ、 「核保有論」情報と、実現の現実性を精査する努力を怠った。
     筆者は何も軍国主義者ではないが、主権国家が成り立つ条件の第一は「国防」であることは世界の常識であり鉄則である。「国防」が現実の問題としては浮上している。 他国の攻撃を防御できなければ、「属国」になるしか道はない。それはイコール「奴隷」である。全ての言語・身体行動が制限され、精神の従属を強要されるが、日本は幸か不幸か「奴隷」の経験がないため、その惨めさを知らないし想像さえしない。 この宙ぶらりんの状態では、近い将来、米国から「離縁状」を突きつけられた時、 どう自活するかを考えるためには、もう躊躇の時間がないのである。あと何年か先の我が国は、国家財政はどうにもならない状況になる。現時点の日本なら何とか間に合うだろう。「核拡散防止条約」が障害だなど云々する者もいるが、この条約自体の見直しも一方では進んでいるのだ(ただ、知っていても隠している?)。
     要するに「国家体制」の全面改築によって、「国家」を守り抜く作戦構築が必要なのだ。全面改築を行わなければ、22世紀いや21世紀中でも存在しないと考えるべきである。今後はますます、自力に国防力のない国は相手にされないだろう。
     今後の日本は、「国防体制の完成」と「情報収集強国」となければならない。
    日本に全世界のあらゆる情報を総合的に管理する組織が待たれるが、来年に「国家安全保障会議」が発足、また、「対外情報機関」の設置の中間報告も出た。
     これらがお座なりにならず、かつ容れ物だけに終わらずに、第一条件を「人間の育成」とした組織になれば、日本を救う大きなツールになるかもしれない。
     「千里の道も一歩から」という言葉がある。遅まきだがこの言葉を噛み締め、「アジアの国民が恐れる」などのデマに迷わされず、
    「国防計画」と「情報管理体制」「人間の育成」の三元化の構築が急務である。
     その先には「拉致問題」や「慰安婦問題」を米議会、国連に働きかける活動ができるような人間の「出現」を期待される。
    ここまで書いて、ふと、昨日入手した話を思い出した。それは、米国議会員の発言の「『日米両国での慰安婦問題に関する共同歴史研究』に賛同する署名を集めること が次の目標になるでしょう」。あれれと思ったのは、最近、平沼赴夫議員をはじめと する自民、民主党の有志が、今後、日米両政府に「慰安婦問題に関する共同歴史研究」 を求めていく方針を決めた、というのと偶然とはいえダブっているのだ。あれだけ叩 かれても、日本で立ち上がるだけでなく、米国議会にも同調者がいるのだ。これを動 かすには何といっても「人」が重要。最近までいえば椎名素夫故元代議士、そして戦後においては白州次郎氏などの世界観を持ち相手を包み込める人物の登場である。
     要するに、今後の日本を立ち行かせることができるのは、一に人、二にも人である。 名前をはばかるが、ある人物が言う「美しい国」造りでなく、「美しい人」造り。 まさに、この「美しい人」が日本に溢れたら、他国から、汚い言葉だが「舐められ る」ことはないだろう。これもまた、主権国家としての最低条件でもあろう。

    [後記]
     前回のコラム「慰安婦決議案採択の可能性は『半々』」を見た友人が「 あの中で、安倍首相を「安部」と書いてあった。あれは、安倍さんを信用できないからか」と言われた。
     筆者は先年、まだヒラ議員だった2000年当時のインタビュー記事の「何かを選択することは何かを捨てること」「政治家に求められるのは、理念や理想をあくまで追求することではなく、現実の世界で結果を出すこと」に、示された信念にすごく心を動かされた。
     安倍首相は、この慰安婦問題では周囲の誤った助言で判断を間違えたことを、 防衛大学校の卒業式訓示でチャーチルの言葉を引いて自分自身認めた。
     それを再修正することなく米国に乗り込んだことは、「理念や理想をあくまで追求することではなく、現実の世界で結果を出すこと」とは裏腹の行動で あり、さらに墓穴を掘ったことは、筆者の考えている「安倍像」と違うから 「安部」を使った。だが、昨今の安倍首相は「憲法」「公務員制度改革法案」 で、結果を出すために「名を捨て、実をとる」覚悟。小泉流とは違う「自民党を壊して」でも「辞任」を考えながらも「結果」を出すことに心掛けてい る。その心情をみていると、参院選に負けても躊躇なく、今後の機会には「安倍」と書きたい。