第18回 「北京五輪後の中国」    2008年4月

        中国の低賃金に釣られて海を渡った日本企業群
      北京五輪後の中国はどうなるなんて、世界情勢オンチがいくら考えても判るわけはないが、例のように行
 き当たりばったり追ってみることにした。
      昨年、外交評論家の加瀬英明氏は、「10年後の中国は、どうなっていることだろうか。ナチス・ドイツはベ
 ルリン大会を催した9年後に、崩壊した。ソ連もモスクワ大会から9年後に、ベルリンの壁が倒壊したことによ
 って瓦解した。
    中国も同じように北京大会の9年後に、崩壊するのだろうか」(『自由』`07年7月号)と書いていた。
      ところが、4月2日の某紙コラム『世界読解』に、「先日サンフランシスコでの日米関係者シンポの席上、あ
 る研究者に、『これはジョークだが』と耳打ちがされた」と述べられており、前記との全く同文だった。世界は北
 京五輪、上海万博より、その後の情勢の変動に関心が集中していることを改めて知らされる。
      このように先年来、北京五輪、上海万博の後の中国はバブルなどで崩壊するだろう、と喧伝される一方
 で、OK氏ををはじめ、AS紙、NK紙、またNKにHを加えた放送局その他のヨイショに、大中小の日本企業
 が、かつて「北朝鮮は労働者の天国」コールに踊らされ約70万人以上といわれる「日本妻」が船で渡ったと
 同様に、踊らされて中国に向かって猛進した。
        中国の景気は本物か
      目下の中国は、なるほど北京、上海、その他の都市では、軟弱地盤をものともせず雨後の竹の子のよう
 にビルが建ち並び、各地ではセレブもどきの女性の闊歩の映像が連日、日本のテレビでもに観られ景気の
 良さが喧伝されている。
      しかし反面、低賃金労働者と膨大な出稼ぎ労働者が依然として溢れているのが実態である。また就業状
 況では、知的エリート群大卒者以外の大卒者就職難はひどく、さらに内陸部各地を中心に広がっている「大
 学至貧論(大学に入ると、さらに貧しくなる)」については日本ではあまり知らされていないようだ。
      周知の通り、日本企業が望んだ安価な賃金は、すでに過去の話である。それは中国企業ですら東南アジ
 アへ低賃金を求めての移転している実態がそれを表しているし、過年、中国で出された「2011年以降には
 労働力減少が始まる」との調査報告書を裏付けた形となっている。
      この労働力減少には、日本をはるかに上回る高齢化人口の進行が絡んでいるという。こういう状況の中
 で国内では、民衆の暴動(年々増加し、06年に約8万件)が多発しており、このような社会的不安定さとの連
 動で、いつバブルが崩壊してもおかしくない状態になっている。
      また、昨今の餃子事件などは、このような社会的現象と不安感、伝統的に中国人が持つモラル観が一挙
 に表出した結果だと考えてもおかしくない。
      それは中国人の柏楊が語る、「事実を曲げることに躊躇しない。公私の区別がない。悪いことはすべて他
 人のせいにする」などによって、中国社会全般に通底している変節的な観念から発している。
      一方、中国政府、いや、この国には正統な政府などはなく単に「共産党上席者集団」なのだが、この集団
 の使命は中国共産党存続護持であり、その絶対必要条件が持続的な経済成長であるが、そのバブル化が
 「黄信号」が灯り始めたことに中国という名の集団は気付きバブル崩壊後対策に乗り出した。
      筆者は、この広大な土地、人口16億人ともいわれ多くの民族の集団群のままの統治制度では長期的継
 続は難しく、連邦制を取らざる得ないとする、幾多の識者の意見に同調する。例え連邦制を取ったとしても、
 ソ連などの例からみて完全無比なものができるとは思われないが、このままではますます中央政府のコント
    ロールが効かなくなる状態に陥るだけだろう。しかし、ガンである中国共産党の解体化には、誰が「首に鈴
 を付ける」かで、今後とも困難だろう。
      そして日本にとって
      連邦制問題はさておき、中国はバブル崩壊後対策をどうしようとしているか。
      その救急策としての「カンフル剤」と「点滴」を日本に押し付けようとしているのではないかと推測する。どう
 いうことかといえば、2005年10月の「改正会社法」に始まり、「企業破産法」「物権法」「企業所得税法」「労
 働契約法」「独占禁止法」などを続々と公布、施行させているのである。
      例えば独禁法では、「1事業者としての市場シェアが50%以上」「2事業者としての合計シェアが66.7%
 以上」「3事業者としての合計シェアが75%以上」に該当する場合は、違法行為で得た収益が没収するほ
 か、前年度売上高の1〜10%の範囲で制裁金が徴収することができる。
      これらの条件に当てはまるのは日本だけでは決してないが、恐らくターゲットとされるのは日本企業で、そ
 の占める割合が高いであろうと想定する。
      またよもやとは思うが、最悪の場合(かの国では当然のように)日本企業の全面撤収を迫り、その上で没
 収という可能性も完全否定できないのでないか。
      そうなると、安い労働力に釣られて海を渡ったが、さっさと面子を捨てて苦労を覚悟で日本に戻ってきてい
 る企業こそWinといえるのではないか。
      中国は、このような法律を使って日本から搾り取ることを考える一方で、日本がバブル崩壊で辛酸を飲ん
 だ苦い経験を、それこそしっかりと「学習」して、自分たちのバブル収拾策のとして考え出したのが一連の法
 的整備だろう。
      あの米国のFBRでさえも、サブプライムローン問題の収拾策には、日本のバブル崩壊を研究して対策を
 まとめ、その実行に移しているという。ただ、日本と異なる点は「公的注入」を行わないという点だけだそうで
 ある。それは今年が大統領選の最中のためだとも言われている。
      全くの暴論だが、北京五輪後9年を待たず上海万博前後にバブルは崩壊するだろうと考える。しかし、中
 国のあの爆発力に加え巧妙な収拾策が計られれば、その先の2020年前後にはは不死鳥のように蘇える
 だろう。
     1997年、米国のサマーズ財務長官が「中国は2020年には世界一経済大国になる」と発言した。その
 サマーズ発言をペンタゴンは1999年の「アジア2025年」の中で裏付けている。そうなると筆者も残念だが、
 米国はその後塵を排する結果になるだろうと考えざるを得ない。
      なお余談だが、このレポートの中では、日本が「中国のフィンランド化」を予測している。昨今の福田康夫
 首相発言などを聞いていると、これを容認、切望しいるかのような発言だなな、と思ってしまう。
      余談の続きとして、昨年ゴールドマン・サックスは、2050年には「世界経済の1位はメキシコ」と予測。20
 50年にはロシアが6位にとしてあったが、その他の国の順位には触れておらず、2030年に英国、ドイツを
 抜き、2040年には日本を追い越すという、末恐ろしいレポートだった。この時期に果たして中国が何位にい
 るか、草葉の陰から興味を持って見てみたい。
        あとがき
      昨年、あるビジネス雑誌に、世界政策研究所シニアフェローの興味あるコメントが載っていた。それは、
 「中国首脳は、五輪開催が名案だったか疑い始めている」というものだった。その疑念のいくつかを拾うと、
   ・中国首脳は常に国粋主義的な感情の発露の嵐が自分たちに向かうのではないか心配。
   ・大気汚染ですすけた選手の姿のテレビを観た人民は、政府が与えようとするイメージとは反対の結果を
    生む。
   ・五輪が政治のサーカス化し、抗議の絶好の機会となる。
   ・台湾は独立を叫び出す。
   ・北京五輪が西側にどう受け止められるか。
   ・五輪開催中に何かが起これば、必ず国際社会の批判が起きる。
 というものであったが、1年経って、改めて読み直してみると、当たらずも遠からずの危惧であった。
      今、中国は五輪絡みのチベット騒乱で、ニツチもサッチもいかないどころか、強面で収拾しようとしている。
 この手法は中華圏の伝統的なものだが、片方で世界の眼と五輪開催の面子に拘るあまり、事態を一層混沌
 させてしまっている。
      まず、ダライ・ラマ14世が中国に求めているのは何かに思いを馳せ、「チベットの独立」ではなく、外交と
 国防を中国政府に委ねた上で「高度な自治」を求めていることだと考えれば、共産党内の抗争にとらわれず
 天安門事件をきっちり学習していれば(すれば),世界注視の中でも事態収拾を幾分でも穏やかにできただ
 ろう。それにしても、チベット騒乱を筆頭に五輪宿舎、食事への備え、その他諸々の所業は、まさに、かつて
 辺境の地にあっての「野郎自大」そのものだ。
                                                      (2008.4.5)